赤ちゃんのぐずり泣きを止める?ホワイトノイズについて日本音響研究所 鈴木 創さんとお話しました!

2025.03.06

赤ちゃんの夜泣きやぐずり泣きに悩んでいる親御さんはとても多いと思います。アデッソでは現在そのような親御さんのご負担を少しでも軽減できれば、という思いからホワイトノイズやブラウンノイズなど、赤ちゃんを落ち着かせる音を搭載した商品の開発を進めています。

今回、赤ちゃんに泣き止んでもらったり、リラックスして過ごしてもらうための「音」について理解を深めるため、日本音響研究所の鈴木 創さんから詳しいお話しを伺いました。

 

日本音響研究所の鈴木 創さん

日本音響研究所 鈴木 創さん

 

鈴木創(すずき はじめ)さんは、1971年1月30日生まれの音声科学・音響心理学の専門家であり、有限会社日本音響研究所の代表取締役を務めています。10代から同研究所に所属し、音に関する幅広い分野で活躍してきました。1993年に日本大学文理学部応用物理学科を卒業後、2012年に所長に就任。

鈴木さんの専門分野は、声紋の研究、音声合成、音声識別、音声科学、音響心理学、マルチメディアに関する音声処理など多岐に渡っています。

警察や裁判所からの鑑定依頼、企業からの商品開発相談、一般の方からの騒音トラブルやノイズ処理の相談、テレビ番組制作会社からの事件・事故に関するものからバラエティ番組、ドキュメンタリー番組まで、幅広いジャンルの経験とご知見があります。

記事サマリ

  • ・ノイズは環境音をマスキングし、赤ちゃんを落ち着かせる効果がある
    ・ブラウンノイズ(低音)が最も胎内音に近く、赤ちゃんに安心感を与える
    ・外出時にノイズを活用することで赤ちゃんを落ち着かせることができる
    ・「ハッとする音(刺激)」と「ホッとする音(リラックス)」の二つの要素が赤ちゃんを落ち着かせる際に重要となる
    ・ノイズを使用しても赤ちゃんが泣き止まない時でも大音量にする事は避ける。ノイズの種類を変えて飽きさせない工夫が大切

なぜ特定のノイズで赤ちゃんのぐずり泣きが落ち着くのか

アデッソ 中村:鈴木さんの「赤ちゃんのぐずり泣きが止まる本」、拝読いたしました!本日は、赤ちゃんのぐずり泣きを落ち着かせるのに効果的な音について、色々とご質問させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

鈴木さん:ありがとうございます。よろしくお願いいたします!

アデッソ 中村:さっそくですが、ホワイトノイズやピンクノイズは、どうして赤ちゃんを泣き止ませるのに効果的なのでしょうか?

【主なノイズの種類とその特徴】

鈴木さん:いくつか要素があるのですが、一番大きな要素としては暗騒音のレベルを上げる、それによって赤ちゃんを落ち着かせたり眠らせたりするのに効果があります。暗騒音というのは、何も音がない状態を指します。静かすぎる状態だと、赤ちゃんは経験があまりないので、どんな音が鳴っても「何だろう?」というふうに驚いてしまい、なかなか気が休まらないのです。

例えば部屋の中に時計の秒針であるとか、冷蔵庫のコンプレッサーの音であるとか、色々な音がありますよね。暗騒音のレベルを上げることによって、そういった気になる音がマスキングされます。 それによって赤ちゃんの気持ちが落ち着いて、色々なところに注意が向かなくなり、お休みできるということです。

併せて赤ちゃんはお腹にいるときにお母さんの胎内音を聞いています。 特に、お母さんのお腹にいるときのお母さんの血流音です。心拍数に応じて強弱を繰り返している音なのですが、その音がブラウンノイズに近い音なのです。 ブラウンノイズは低音が多くあるので、赤ちゃんにとって安心感を与える効果があるのではないかと言われてます。

ノイズが一番効果的に作用するのはいつまで?

 

アデッソ 中村:ノイズが赤ちゃんにとって効果的に作用するのはだいたい何歳くらいまでなのでしょうか?

鈴木さん:低月齢でお腹が空いた時など、生理的な要因以外で泣いてしまう事をぐずり泣きと定義しています。それに対してはノイズが効果的です。大体2歳を過ぎてくると泣く要因がかなり複合的になってきます。

おもちゃを思ったように動かせない、など徐々に生理的要因ではなく成長に応じた色々なフラストレーションが赤ちゃんの中で生まれてくるのです。

そうするとだんだんノイズが効かなくなってくるというケースもあります。そのような観点から、ノイズが最も赤ちゃんにとって効果的に働くのは、大体2歳くらいまでだと考えております。

ただこちらは個人差やシチュエーション、音の種類によって2歳を過ぎてもノイズが効く場合もあります。例えばお母さんを認識するようなタイミングでは、女性のボーカルが入っているものが好まれます。 昔からの幼児番組で歌のお姉さんの人気があるのも、お母さんぐらいの年代の女性の声に一番反応するという傾向があるからです。

外出時にノイズを活用する意味

アデッソ 中村:ノイズを活用することで、環境音が赤ちゃんに与えるストレスはどのように軽減されますか?

鈴木さん:外出先でもノイズを使用すれば、誰かの話し声など外から来る音をマスキングでき、赤ちゃんの気持ちを落ち着かせる効果があります。

ノイズによって赤ちゃんが泣き止むということは、周囲の人たちにとっても良いことですよね。やはり赤ちゃんの泣き声というのは、人間の耳にとって警報音になってしまいます。泣き声は赤ちゃんが何かしらの欲求だったりを危機として大人に知らせるSOSのようなものなので、人間の耳の感度が良い周波数に割と強く分布しているのです。

サイレンやホイッスルと同じような周波数帯が強く出ているので、周りの人たちにとってもすごく気になる音になってしまいます。公共の場であれば、周りにいる人全員が赤ちゃんに対して寛容でいられる人ばかりではないので、ノイズを聞かせることによって、赤ちゃんが外で泣く事を避けられれば、親御さんの気持ちも変わってくるのではないでしょうか。

アデッソ 中村:昔は電車の中で赤ちゃんが泣いていたりしてもほとんどの人が気にしませんでしたが、今はなかなかそうではない事が多いですよね。

鈴木さん:そうですね、最近新しい幼稚園や保育園を作るというと、近隣住人の方が子供の声が騒音だ、という理由で反対運動をするケースもかなり増えてきました。でも本来は元気な子供の声というのが未来の日本を担う力なので、そういうような状態になっている現代は非常にバランスが悪いのですよね。

赤ちゃんは泣くのが仕事というぐらい、彼らにとっては運動やストレス発散であったりするので、それが許される環境であれば、必要なときは泣かせてあげてほしいです。

ただ、泣き声が気になる、イライラするというのは、人間の耳の造りとして仕方がないことでもあります。公共の場や、赤ちゃんに落ち着いていてほしい場所に行くときは、ブラウンノイズや波の音を聞いてもらい、赤ちゃんの気持ちを落ち着かせてあげられればと思います。

赤ちゃんのぐずり泣きを止める二つの要素

アデッソ 中村:赤ちゃんのぐずり泣きを止めるためには、ノイズ系以外にどのような特徴のある音が良いのでしょうか?

鈴木さん:赤ちゃんのぐずり泣きを止める、というのには二つの方向性があり、我々が言っているのは「ハッする」と「ホッとする」の二つです。ノイズを使ったものは「ホッとする」に当てはまります。従来の子守唄のような形で、それを聞いていると段々リラックスしていく、というものです。

もう一つ「ハッとする」というものは、これは先ほど言ったように、大人と違い赤ちゃんは人生経験があまりないので、色々な音に気をとられてしまいます。例えば椅子を引く音がガタンと大きく鳴ったら、大人はすぐに椅子の音だ、と分かりますが赤ちゃんは、何だろう?と思って振り向いてしまいますよね。 これは定位反射といいます。

逆に言うと、そういった生活の中で生じる色々な音を多く用意してあげることによって、赤ちゃんは泣いてる理由を忘れてしまうのです。 「いないいないばあ」のような変化があるものを音で表現しているのが「ハッとする」というものです。

そういう赤ちゃんがハッとするような刺激が次から次へとどんどん聞こえてくるという要素は、赤ちゃんを泣き止ませる上で効果的である、ということを弊社でも分析しております。「ハッとする」と「ホッとする」というものを状況に応じて使い分けるというのが一番良いでしょう。

赤ちゃんのぐずり泣きが止む音楽の共通点

アデッソ 中村:反町隆史さんのPOISONであったり、特定のCMであったり赤ちゃんが泣き止む効果があると言われてる音響の特性や、それぞれに関連している特徴などがあれば教えていただきたいです。

鈴木さん:人間には聞こえやすい周波数帯というものがあります。 これが先ほども言った赤ちゃんの泣き声の分布してる周波数で、大人だと大体3000Hzぐらいです。 サッカーのホイッスルや目覚まし時計に使われているアラーム音なども大体1500Hzから3000Hzぐらいのところを強く出すような形が多いです。

なぜそこの音が聞こえやすいかというと耳の穴の外耳道の共鳴周波数が大体そのあたりなのです。そういう理由があって、他に色々な音がしていても、3000Hzぐらいの音だけ共鳴周波数によって大きい音が聴神経に届くので、そういう音がよく聞こえるということなのですね。

例えばピッコロなど小さい笛はフルートなど大きい笛に比べて音が高いですよね。容積が小さくなると、共鳴周波数が高くなるのです。それと同じように、赤ちゃんの耳の穴は、大人の耳の穴よりずいぶん小さいので、より高い周波数が聞こえるのです。 泣いている赤ちゃんは口元から大きい音を出しているので、耳元でもかなりの音量になります。生半可な刺激の音だと気がついてもらえません。

そういう状態の赤ちゃんの耳に聞こえやすい少し高い音がたくさん含まれていると、赤ちゃんは何だろう?とそちらの音の方に興味をもってくれます。

反町隆史さんのPOISONは、「ハッとする」と「ホッとする」の二つの要素が含まれている曲です。イントロのギターの上と一緒に周波数が極端に下がって上がるV字状の効果音が入っているのです。 サイレンや救急車の音も二つの周波数の変化が含まれていますが、そういった激しい音の変化があるものは注意を引くのに有効です。

ギターのイントロが終わり反町さんが歌い始めると、イントロの時とは逆に音の刺激がほとんど無くなります。メロディーの変化もほとんどなく、今度は聞いていて落ち着くのです。

その上、音域の高い女性のボーカルですと、赤ちゃんの興味を引き続けてしまうのですが、反町さんの歌声は低い音域なので、それもより赤ちゃんを落ち着かせる要因になっています。

POISONはイントロの部分がいわゆる「ハッとする」、サビに向かっていくと「ホッとする」という、両方混在しているハイブリッド型の曲なのです。

今のお話しを反町隆史さんの公式のYouTubeで、ご本人に解説していますが、ご本人もそんなこと全然考えて作っていないとおっしゃっていました。

 

ノイズデバイスが近くにない時のぐずり泣きへの対処法

鈴木さん:今までもマスコミさんから依頼されて、赤ちゃんが泣き止むと噂になっている色々な音楽をその都度分析させていただいてきましたが、去年2024年に講談社さんからお話しをいただいて、我々が今まで20年以上分析をしてきた結果をまとめた本を発刊いたしました。

赤ちゃんのぐずり泣きが止まる本 けろっと泣き止む魔法のメソッド

「赤ちゃんのぐずり泣きが止まる本 けろっと泣き止む魔法のメソッド」

 

「ハッとする」と「ホッとする」というその二つの要素の事だけではなく、絵本の読み聞かせ方法についても、どうすれば赤ちゃんがお休みに近づいていくかというポイントを実践した動画をQRコードから見られるような作りになっています。

アデッソ 中村:そちらの書籍にはドライヤーやビニール袋などを利用して赤ちゃんを喜ばせる方法なども紹介されていますよね。

鈴木さん:手元に音を流せるデバイスがないケースもあると思います。 そういったときに身の回りのあるもので、赤ちゃんを泣き止ますことができる、サバイバル術のような方法として紹介させてもらいました。

レジ袋をクシャクシャすると赤ちゃんが泣き止む、というものもネット上でよく噂になっているかと思いますが、ただクシャクシャするだけでは泣き止まない事が多いのです。

どういう風にクシャクシャすると効果的であるのかというのを実践しています。こちらも QRコードを読み取ってもらえれば見ることができます。

アデッソ 中村:その方法でホワイトノイズ的な音をずっと出し続けることも出来るわけですよね。

鈴木さん:そうですね、本当に何もないときにはそういう物を使っていただければと思います。ビニール袋のクシャクシャした音などは、デジタルで録音すると、特定の周波数帯しか再現できません。

そうすると、赤ちゃんを落ち着かせるのに効果的な周波数が再生出来ない場合もあるので、どちらかというと実際にクシャクシャやり続けてもらう方が良いかもしれません。ただずっとクシャクシャやり続けるのは大変ですので、ある程度赤ちゃんが落ち着いた後は、そういうエッセンスが入ったノイズをスピーカーから流すというのが一番効率的でしょう。

ノイズを使用する際の注意点

アデッソ 中村:ノイズを使うときの注意点などがあれば教えてください。

鈴木さん:ノイズを聞かせても赤ちゃんが泣き止まないからといって、音を大きくしたりスピーカーを耳に近づけたりするのは避けていただきたいです。

赤ちゃんがノイズを聞いても泣き止まない場合は、他に理由があるケースが多いのです。例えばお腹が空いた、どこかが痛い、オムツが汚れてる、そういうように理由がある場合は、その要素を取り除かないと、いくらノイズを聞かせても泣き止みません。まずそういう理由になるものをチェックしてもらうことが大切です。

また赤ちゃんはある程度月齢が進んでくると音に慣れてきて、せっかく音を流していても効果が薄れてきてしまいます。そういう場合は違う音に変えてみたり、しばらくしてからまた元の音に戻したりする工夫が必要です。

アデッソ 中村:ぐずり泣きをしている赤ちゃんにノイズを活かせる場合、最適な使用時間はどれぐらいでしょうか?

鈴木さん:ノイズを聞くということは、家の中にいて交通騒音などが入ってくるのと同じようなことなので、あまりにも大きい音を出さなければ、使用時間を気にする必要はさほどありません。

ただ先ほども言ったように、ノイズを長期間使用していると、赤ちゃんがその音に飽きてくるので、そういった点では工夫が必要になります。

アデッソ 中村:なるほど、ありがとうございます。赤ちゃんが飽きない工夫も取り入れた商品を考えてみます。今日は色々なお話しを伺えてとても勉強になりました。ありがとうございました。

鈴木さん:こちらこそありがとうございました。