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睡眠ノウハウのほとんどが嘘!?櫻井教授に聞く最高の目覚まし時計とは?

2024.11.04

今回の対談では、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長 櫻井 武教授をお迎えし、世間で広まっている睡眠に関するノウハウの真偽や、睡眠と覚醒にまつわる基本的な知識について伺いました。体内時計を整える方法や目覚まし時計の効果など日常に役立つ情報が満載です。睡眠や覚醒について悩みを抱える方や、もっと深く眠りについて知りたい方にとって必見の内容です。

 

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長 櫻井 武教授のご紹介

 

筑波大学大学院医学研究科の博士課程を修了後、金沢大学医薬保健学総合研究科の教授や、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員を歴任し、現在は筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の副機構長を務めています。覚醒を調節する神経ペプチド「オレキシン」の発見者として知られ、著書には『睡眠の科学』『「こころ」はいかにして生まれるのか』などがあります。


■「レム睡眠=浅い眠り」「90分周期」は間違い

長谷川:はじめまして。本日はお忙しい中ありがとうございます。アデッソでは、認知症の方が一目見て曜日がわかるようにデジタル化した日めくりカレンダーを作ったり、耳が聞こえない方も活用できる振動の目覚ましを作ったり、社会問題を解決するような時計を作っています。

最近は、ホワイトノイズが海外でトレンドになってきていて、弊社でも開発を考えています。その他にも光で目を覚ます時計などの新商品やアイディアについて、睡眠のプロフェッショナルの櫻井教授からはどう見えてるのかなとか、そういうお話しを聞かせて頂ければと思います。よろしくお願いいたします!

櫻井教授:お役に立てれば良いのですが(笑)、まず世の中にはいろいろな睡眠を改善するための商品がありますが、科学的にははっきりとした根拠のないものも多くて、、例えばレム睡眠・ノンレム睡眠を計測するウェアラブルデバイスもありますが、実際は脳波をとらないと睡眠の質というものは分からないものなのです。

もちろん7割程度は当たっているかもしれませんが。そもそもレム睡眠=浅い睡眠だとみなさん捉えていますが、レム睡眠は決して浅くはないんです。

長谷川:レム睡眠って頭は半分起きてるけど、体は起きてないみたいな状態かと思っていました。

櫻井教授:違いますね。ノンレム睡眠はだいたい三段階に分かれていて、N1というのが浅い睡眠と言えます。レム睡眠とノンレム睡眠は質的に全く違う状態と言えます。眠りが浅い、深いっていうような量的な関係ではないんです。眠りが浅いっていう意味で言えば、レム睡眠状態の人が簡単に起きるかどうかっていったらそうではない、むしろレム睡眠の人はなかなか起きないです。

少なくともN1に比べたら、レム睡眠の方が覚醒閾値(いきち)は高いので。というのはレム睡眠の時って感覚系が遮断されちゃっているので、レム睡眠のときたまたま目覚ましが鳴ったら起きられないことも結構多いですよ。

長谷川:90分周期で起きやすいっていうのは本当ですか?

櫻井教授:嘘ですね、90分周期っていうのはよく言われてますけど、そこまで正確じゃないんですよ。体内時計は結構正確なんですけど。睡眠周期って人によって全然違うし、その日のコンディションによって個人の中でも違うので、90分周期を考えて早起きするっていうのはほぼ意味ない。今の人ってほとんどの人は睡眠不足なんで、そもそも睡眠時間を90分も短くするべきじゃないんですよ。

長谷川:そうなんですね。7時間半の睡眠がとれないなら、6時間で起きるのが正しいのかなって思っていたのですが。

櫻井教授:90分周期なんて無視して、できるだけ長く寝た方がいいです。

長谷川:なるほど。アラームの前に起きちゃうことって結構あるんですけど、その理由はなんですか?

櫻井教授:アラームをセットした時点で脳に「明日この時間に起きる」って、潜在意識が入ってるんですよ。そうするとそれに合わせて、睡眠もデザインされる。そのアラーム時刻の直前に向かってだんだん睡眠深度って浅くなっていくのです。さらに、普段起きる時間にコルチゾールというホルモンが大体ピークになるのですが、「明日は早く起きなくては」と思った時点でそれも前にずれるんです。

だから外から何かする必要って本当はないんです。目覚ましが鳴る前に起きちゃったっていう体験をする方が多いとおもうのですが、こういう理由からです。潜在意識が全体の睡眠構築をその時刻に合わせて作ってるんですよ。

被験者をたくさん集めてきて、「明日何時に起きろ」って指示を事前に出したグループと、そういう指示を事前に出さずに早起きさせるために叩き起こす、ていうグループを分けると全然違うんです。睡眠中って内分泌機能がすごく動いているのですが、さっき言ったように「明日何時に起きろ」といわれた場合、起きる直前になるとコルチゾールの分泌がはやくなっていくんです。

何百万何十億年の進化の歴史なんで、睡眠覚醒なんて本当に基本だから外から何かして良くなる悪くなるっていうものではないはずなんです。世の中の人は悪くなる方向のことをやっているので。それを取り除くのが一番効果的です。

■現代人の睡眠不足の主な原因はスマートフォン

寝室でのスマホ利用が睡眠に与える影響

長谷川:具体的にどんなものが睡眠の質を悪くしているのでしょうか?

櫻井教授:例えば光環境です。夜でも室内が明るすぎますね。日本は特にそうで、日本人は昔から暗いのが苦手で、海外の家庭とかホテルって暗く感じますよね。暗いところで過ごすと目が悪くなる、というのも嘘です。近視っていうのは、眼軸長で決まるんでそれが長くなるってことはありえないので。

暗いと瞳孔が散大(散瞳)するので、被写界深度が狭くなる。カメラと同じような感じでピントがあいにくくなるので、目が悪くなるような気がするんです。でも明るいところに戻ればそれも元に戻ります。部屋の暗さよりもなによりも悪いのは、ゲーム機や、パソコン、スマホを見ていることです。あの光が悪いんです。

現代人って、8割の人がスマホをベッドに持って入ってるって言われていて。ベッドでスマホをみているなんて生物学上本当にありえない。夜なのに強い光が目に入ることで、体内時計を後ろにずらしてしまっています。だからそういう社会的な背景があってみなさんの睡眠がおかしくなってるんです。

長谷川:なるほど、スマホが浸透すればするほど、睡眠で悩む人が増えているんですね。

櫻井教授:スマホが浸透し始めてからどんどん睡眠障害の人口が増えていて。体内時計と睡眠圧っていうのが睡眠に影響を与える二大ファクターなんですけど、そのうちの1つの体内時計がスマホやパソコンのせいでおかしくなっています。

長谷川:やっぱり寝る数時間前から間接照明にして、スマホとかそういったブルーライトはもうカットした方が良いんですよね。

櫻井教授:そうですね、それが出来たら良いですが出来ないです。みんなスマホ依存症になってるんで。歩きスマホしている人や満員電車で無理にでもスマホを見続けてる人に向かって、「睡眠のためにスマホをやめよう」って言っても絶対できないはずです。

むしろスマホを取り上げるとストレスに感じてさっきのコルチゾールというホルモンが上がってきて寝れなくなります。二重苦なんですよ。スマホを見たら光で体内時計が狂ってしまうし、スマホを取り上げられたらストレスで眠れなくなる。

長谷川:まだまだ依存症までいかない子供の段階で、テレビやスマホなどを我慢する習慣が身に付いていれば一番良いんですかね?

櫻井教授:そうですね。アメリカのIT企業に勤めている親などは子どもにスマホを与えていないんです、スティーブジョブスもそうだったようですね。スマホが悪いのをわかっているからです。

長谷川:SNSとかもやっぱり中毒になるように仕向けてるんですよね?

櫻井教授:そうです。わざとアップロードの時間がコントロールされている。アップロードを待つ間にドーパミンが出て中毒になっちゃう。

長谷川:私達としても、スマホを寝室に持ち込むというのをなくしたいと思っていて。

櫻井教授:時間すらスマホで確認する時代なので。時計がいらなくなっちゃってる。逆にスマホがないと時間がわからない。だからある意味時計はそこで何か助けになるかもしれないですよね。

長谷川:どうにか目覚まし時計を使ってそういったスマホ中毒の改善であったり、デジタルデトックスが出来ないか、と思っていて。私も娘がいるのですが、育児をしているとどうしても静かにさせるためにスマホを与えてしまうことがあって。でもそれは良くないな、というのも分かっていて。

子供にスマホを見せないとなると、私達も我慢しなきゃいけないなってことに気づいて。親がスマホを見ていたら子供だってみたくなるよなっていうのは、テレビのリモコンであっても、親が触ってるからおもちゃよりも欲しがる、そういう理由があるのかなって。

子供のスマホに対する習慣付けというか、自分で我慢する力を育てる。そういう商品ができないかなと思って、いろいろ試行錯誤して考えてはいるんですけど。ブルーライトカットができる商品ですとか。

櫻井教授:ブルーライトカットはそれほど大きな意味がないんですよ。ブルーライトってどうしてブルーライトと呼ばれているかというと、「メラノプシン」っていう体内時計をリセットすることに関わっている光受容体が特に反応する色がブルーだからなんです。ただその反応はピークが青い光なだけで、色々な色に反応します。だから別にどんな波長の光だろうか、明るければ脳は興奮させられてしまう。結局問題になるのは光の明るさなんですよ。

長谷川:ちなみにテレビとスマホだったら、テレビの方がマシなんですかね?

櫻井教授:テレビも明かりが強いので悪いんですけど。ただスマホがさらに悪い原因はドーパミンが出てしまうからなんです。インタラクティブな動画などを見てる人なんかは、他人が羨ましくなったりとか、感情に関わってくる。あと自分で操作してフリックしたりしてるじゃないですか、あれが良くない。

スワイプして画面を変える作業でもドーパミンが出るんです。「何か情報があるんじゃないか」と思ってアクティブに探しているから。例えると、原始時代に木に登って木の実があるかどうか見ていたり、馬券を買ったおじさんが馬が走ってるのを見ている状態と同じなんです。それを1日に何度もやっているわけですから、絶対依存症になるんですよ。

長谷川:小学生とかでもスマホを持ってる時代ですもんね。将来的に現在の環境は子供たちにどんな影響を与えると思われますか?

櫻井教授:実際スマホが出てきてから、言語性IQって毎年0.6ぐらい下がってるらしくて10年で6ですよね。スマホを多く使うほど、思考のアウトソーシングをする機会がふえているるのもあります。とはいえAIが発達していったら、人間は知的作業しなくてもよくなっていくので馬鹿でもいいんじゃないかっていう考えはありますけど。

ごく一部の人たちが働き、他の人たちはもうベーシックインカムで暮らして遊んで暮らしていけばいいんじゃないかっていう意見もある。

長谷川:なるほど、ぞっとしますね。

 

■睡眠と覚醒を決めるのは体内時計と睡眠圧

 

 

櫻井教授:睡眠と覚醒を決めるのは、体内時計(概日リズム)と睡眠圧のバランスで決まっているんです。睡眠圧っていうのは、起きていれば起きているほど高まっていく。お風呂の水のように、起きている間中溜まり続けていく。それを解消できる唯一の手段は睡眠を取るっていうことなんですよね。お風呂の栓を抜くイメージですね。

長谷川:睡眠で睡眠圧を解消しなければいけないってことですか?

櫻井教授:そうです。ゼロになるまで本来は寝てなきゃいけないんですけど。結局ゼロになるまで寝れないことも多くて、それがいわゆる睡眠負債が溜まっていっている状態。翌日水がまだお風呂に残っちゃっているイメージですね。それを解消することは寝ること以外ないので、しょうがなく昼寝しちゃうとか居眠りしちゃうとか、そういうことが起こる。

長谷川:体内時計と睡眠圧が影響しているんですね。

櫻井教授:そうですね、ツープロセスモデルって言って、主にその体内時計と睡眠圧、二つのファクターで決まるっていう。当然それだけじゃなくて感情がそこにかぶってくるんですけど。

 

■光る目覚まし時計で体内時計を整える

光る目覚ましで体内時計を整える

長谷川:光る目覚ましは体内時計を正常にする上では有用なんですか?

櫻井教授:ある程度の照度があれば良いと思いますよ!光環境を整えるっていう意味では非常に意味があると思います。普段目ってものを見るために使っているので、その視覚に関わると思われがちなんですけど、実は、そうではない視覚に関わらない光受容システムっていうのがあって。

体内時計っていうのは元々大体24時間周期でリズムを刻んでるんですけど、クォーツみたいな正確性がないので常に光を使って時刻合わせをしてるんですね。だから文明なんかなかった時代は日の出とともに目に光が入ってくるので、そこで時刻合わせをするんですよ。

睡眠圧っていうのは起きてる間ずっと上がってるんですけど、体内時計っていうのは睡眠圧のように単純ではないんですよね。何時に何をするべきかっていう時刻と情報を体に知らせているんです。そういった意味では砂時計的なものではなくて、時刻情報を常に体に発信してて「何時ごろ血圧を最大化する」とか「何時頃ホルモンを出す」とか全部決まってる。

例えば朝6時に光を浴びると、その時刻が掲示されて、今大体何時だっていうのだとか、発信するべき情報を選び出して体へ伝達してくれる。時刻ごとに最適な状態にチューニングしてくれるんです。

他にも、覚醒をつくる力で覚醒圧というものもあって、これも時刻ごとに決まってて、実は意外と思われるかもしれないんですけど、午前中って覚醒出力が低いんですよ。だけどその代わり睡眠圧もないから朝は目覚めていられる。睡眠圧が上がっていくとそれに対抗するために覚醒圧っていうのもすごく上がっていって、普段23時に寝る人だったら大体寝る2時間くらい前の21時頃、ピークになるんです。

結局常に睡眠圧と覚醒圧のバランスで決まってるので、昼間ちょっと眠くなる時間帯っていうのは、力が足りてない。これはいろいろなセオリーがあって、夏と冬で1日の長さが違うので、朝計る時計と夜計る時計があると言われているんですけど、ちょうどそのハザマぐらいのタイミングで眠くなっちゃうんですよ。

個人差はすごくありますが、ごく普通の平均的な人だったら朝、光を浴びて16時間後ぐらいに、いわゆる睡眠への扉が開くっていうような言い方する人いますけど、そのころに覚醒出力が下がっていってるんですよ。睡眠圧に押し切られて眠るっていうことになります。

現代人でずれてるのは大抵体内時計なんです。体内時計がずれているか、睡眠圧をとりきれていない=寝不足という状態により、昼間調子が出ないのです。睡眠圧はとりきれていないと積算されていくんです。今の時代の人はだいたい寝不足です。それでも、夜眠れないっていうのは、夜でもスマホの光を浴びまくって目に光が入っていて、それによって体内時計がずれてしまっているから。

夕方以降に浴びる光っていうのは体内時計を後ろにずらすので、それ以降の全部が後ろにずれる。そうすると、11時に寝ようとしても寝付けないです。

 

 

長谷川:睡眠圧はあるが覚醒圧もあるので寝れないんですね!なるほど。

櫻井教授:そうです。体内時計がずれてしまっているということです。

長谷川:体内時計を整えるためにも、光る目覚まし時計は良さそうですね!

 

■睡眠と覚醒を改善するには光環境を整えることが重要

睡眠と覚醒を改善するには光環境を整えることが重要

櫻井教授:さっき夜は暗くしたほうが良いといいましたが、逆に日中はもっと明るくしたほうが良いんです。都内は特に日照が悪い場所が多いですよね。でも午前中から昼過ぎまでは、明るい方がいいんですよ。外って10数万ルクスの照度があって、実際外に行くのが一番良いんです。

そして夜は200ルクス以下の照度に抑えた方がよくて。結局体内時計がチューニングされたのって、電気や照明なんてない時代の頃なので。進化するにはまた数百万年かかっちゃうので、スマホはまだ十数年だから脳や体のチューニングが追いつくわけがないということなんです。光環境で言ったら特に電気も火も使ってなかった時代の文明なんかなかった頃を基準にしているので。ですがその頃の環境に戻るって言っても絶対無理なのでそれを知識として知ったうえで工夫するのがよいです。

光環境って本当にものすごく重要で、結局いろんなこと言ってますけど、環境で何か睡眠に影響を与えるって言ったら、大きなものは外気温と光環境なんですよ。だからこの二つを考えるのが一番重要で、もちろんカフェインだとかアルコールのような飲食物の影響などもありますけど、基本は光と温度なんですよね。だからそういう意味で光は大切なんです。朝は強い光を浴びた方がいい。

長谷川:逆に夜はどういう光がいいとかっていうのはありますか?

櫻井教授:光というより暗さです。

長谷川:光の色の種類とかは関係ないんですか?

櫻井教授:それよりも暗さです。暖色系の方がいいと言われている根拠っていうのは、さっきの「メラノプシン」っていう体内時計をリセットすることに関わっている光受容体が特に反応する色が青色だから。でもさっき言ったようにオレンジ色の光だろうが、明るければ影響してしまうんですね。

もちろん暖色系のほうがただの明るい電気よりは良いと思いますよ。結局暗くした方が良いです。だいたい200ルクスとかそのぐらいが良い。スマホの画面も暗くした方がいいです。

 

夕方からは暗い部屋で過ごすことで体内時計を整えましょう

 

長谷川:それだいぶ暗いですよね。

櫻井教授:アメリカの家庭とか、ホテル、雰囲気のいいレストランとかそんな感じかと思います。ただ本当に人それぞれで、例えば暗いと寝れないとかっていう人も結構いるんですよね。これはもう感情の話で、暗いと怖いんですよね。三番目のファクターになるんですけど、何かしらの感情があると眠れないんです。

怖いっていうネガティブな感情だろうが、明日なんか楽しいことがあるというようなポジティブな感情であろうが、感情があると眠れない。さっきのスマホを取り上げられたら不安になっちゃって眠れなくなる、というのもそれです。

長谷川:なるほど、個人差ですね。逆に睡眠に関するすべての人に言える共通項ってありますか?

櫻井教授:もう共通項っていうとやっぱり外気温と光環境ですね。睡眠習慣って本当に人によって違って、睡眠に何か満足いかないって言ってる人の原因っていうのは千差万別なんですよ。しかし、気温を適切にするっていうことと光環境を整えるってことは絶対重要ではありますね。

長谷川:それで睡眠をたっぷりとって起きて、ていうことをちゃんとすれば、睡眠負債みたいなものがなくなって、割とよく寝れたって感じで起きられるんですかね?

櫻井教授:今もうみなさん寝不足っていうベースで生活してるので、さっき言ったようにちゃんと設定された時刻に起きられない人もいくらでもいる。やっぱり睡眠負債がたまっちゃってるんです。

長谷川:何かその夜セットするというかその行為にも何かヒントがありそうな気はしますよね、「明日はこの時間に起きよう」と思って時計をセットするという。

櫻井教授:さきほど目覚まし時計をセットしなくてもその時間をインプットしたら起きられるって言いましたけど時計をセットしないと、まずそこでもまた不安に感じる人もいて、セットすることで安心を獲得するっていう気持ちの面の話しでもあります。

長谷川:やっぱり保険的な役割が目覚まし時計にはあるということですよね。

櫻井教授:そうですね、安心を得るってことですね。

長谷川:お年寄りのために日めくり電波時計を作ったり、聴覚障害の方も使える振動式目覚まし電波時計を作ったりしているのですが、子供に特化した目覚まし時計とかも作りたいなと思ってまして、子供って大人と比べて脳の働きが違うとかあるんでしょうか?

櫻井教授:子供と大人の何が一番違うかと言ったら必要な睡眠時間が違うんです。子供で年齢が若ければ若いほど、必要な睡眠時間って長い。望ましい睡眠時間は実は5時間とか幅があるわけですよね、人によって。とはいえ、年齢が若いほど睡眠時間が必要なのは確かで。今の子供は夜起きているのに、始業時間は昔と変わっていない。とても問題です。

■睡眠不足1位の日本

 

長谷川:日本人って先進国の中でも睡眠が足りないって言われてますよね。

櫻井教授:足りないですよ。日本は世界で一番睡眠が少ないって言われています。

長谷川:それってワーカホリックとかそういったものも関係があるんですか?それと感情が割と悲観的じゃないですけどそういった国民的な性格からも来てるのかなって思ったのですが。

櫻井教授:おっしゃる通りです。あと物理的に通勤時間長かったりとかっていうのもありますけど。今OECD加盟国で一番睡眠時間が短いです。ちょっと前まで韓国と争ってたんですけど今は日本が圧勝してます。

長谷川:バブルのときと比べて国民のライフスタイルもちょっとずつ欧米に近づいてるようなイメージはあるんですけど、逆に睡眠時間はどんどん圧迫されていっていますよね。

櫻井教授:ただこの調査にはいろんな問題があってですね。睡眠ってさっき言ったように脳波などを取らないと実際のところはわからないんですけど、睡眠についての調査結果ってアンケートをもとにしているものがほとんどです。日本の文化背景には、「寝てない人の方が偉い」「のび太は寝てばっかりいてだめ」っていうような考え方がありますよね。

そういう文化背景があって、だから割とみんなアンケートには実際の睡眠時間よりも短く書いている可能性もあります。中国は人種的にも地理的にも近い民族なんだけど、日本の睡眠時間よりも1時間以上長いんです。なぜかっていうと、中国には寝てない人が偉いみたいなそういう概念がないんですよね。その概念って韓国と日本だけみたいなんです。

例えばフランスとか行くと、ベッドの上でみんな新聞とか読んでる生活してるからその時間まで書いちゃったりしてる人もいるので。寝てから起きるまでの睡眠時間を書いているのか、単純にベッドに入ってから出るまでの就床時間を書いているのかの違いもあったりするんです。だから日本は少な目に書いている可能性が高くて、他の国は長めに書いているという可能性もある。

長谷川:何か刷り込みなのかわからないですけど、睡眠時間は7時間半ぐらいがいいみたいな考え方ありますよね。それとちょうどなんかかぶってる感じはしますよね。やっぱ寝れば寝るほどいいっていうのは、僕もやっぱり8時間と7時間足らずで比べたら8時間寝た方がパフォーマンスはいいですし。

櫻井教授:それは長谷川さんの適正睡眠時間が8時間なんですよね、みんななぜか睡眠って時間を知りたがるんですよね。何時間寝れば良いんですか?ってよく聞かれるんだけど、例えば何カロリー食べるのがいいです、ってあんまり聞かないじゃないですか。みんなお腹いっぱいになるまで食べてる。

睡眠も同じで、翌日ちゃんと覚醒して滞りなく作業ができるくらい睡眠時間をとるっていうのが基本の考え方のはずなんです。動物とか誰も何時間寝る、なんていうのは考えてなくて、自動で脳がコントロールしてくれてるはずなんだけど、人間は翌日の始業時間があったりして、夜はいろんなコンテンツがあって寝れなかったりして睡眠時間が圧縮されちゃってるんです。

長谷川:睡眠をコントロールしようとするんではなくて何かもっと睡眠の周りにある環境みたいなものをコントロールしないといけないんですね、時間をコントロールしようとしすぎなのかも。7時間寝ればOKみたいな考え方自体間違っているのかも。

櫻井教授:そうですね。悪い部分を取り除いていくことが大切です。

■朝タイプや夜タイプは科学的に存在する

クロノタイプは存在する

長谷川:朝タイプ夜タイプってやっぱりあるんですかね?

櫻井教授:それはクロノタイプっていうのものでだいたい五つぐらいに分けられるのですが、朝タイプ夜タイプは明確にありますよ。今の文明国の社会構造って残念ながら朝型の人が有利で、それってある意味では差別なんですよ。クロノタイプは遺伝的に決まってるものなので。

長谷川:血液型みたいに「私はクロノタイプC型です」とか言えたら良いんですけどね。

櫻井教授:そうなんですよね、会社もそれに合わせて「この人はC型だから10時出勤」とかそういう制度があれば良いんですけど。そうしたら通勤ラッシュも改善されるかもしれませんし。

長谷川:クロノタイプって科学的にしっかり判断できるんですか?

櫻井教授:できます。一番科学的にやるには口の中から細胞をとってきて培養して、周期がどのぐらいかとか調べたりとか、あとは何回か採血して、特定のホルモン分泌のタイミングを調べたりするとわかります。

長谷川:そうしたらもしかして将来さっきいったみたいに、みんなが自分のクロノタイプが分かって、働き方もそれに対応して、とかなってくるかもしれませんね。

櫻井教授:ただ年齢によっても違って。大体中高生ぐらいになるとクロノタイプって夜型が増えてきます。それは今インターネットがあるからじゃなくて、昔からそうなんですね。だから学校の始業時間が8時40分っていうのは本当におかしいんですよ。社会人よりも遅くていいのです。さらに、今は夜みんな遅くまで起きてる。さっきも言ったように若い人の睡眠時間って9時間10時間でしかるべきなので結局みんな寝不足になっちゃってます。

長谷川:古代のときって常に夜中も誰か起きている状況にしていて、外敵から身を守っていたと思うんですけど、そういう潜在的なものも人の脳内にまだあるのかな、と感じたのですが。

櫻井教授:そうですね、そういうセオリーがありますね。

長谷川:それと同じで火を焚いておけば野生の獣が来ないから安心する、みたいな感覚も古代から刷り込まれているから、そういうバチバチっていう音を聞くと安心するのかなって思っていたのですが。

櫻井教授:そうですね、それもあるのかも知れない。

長谷川:でもこれは個人の感情でしかないんですかね?よくBGMとかで自然音とか流す方がいると思うんですけど。

櫻井教授:感情って生きてるうちにみんな色々書き換えられていて。何が好きかってみんな違うんですよね。だからもう音楽にしても、一概に全員がこの音を聞いたらいいですね、とかってマネージできないんですよ。例えばビールだって本来だったら絶対嫌いなはずなんですよね。苦いから。

苦いものって本来動物は絶対取らないですから。アルカロイドの味で毒物っていう認識で。でも日本人のおじさんって大体ビール好きじゃないか。それは後から学習して好きになったってことなんです。それと同じで人それぞれみんな生活が違うからいろんな学習をして、好きなもの嫌いなものも変わったりして、人それぞれですよ。

さっき香りの話しもありましたけど、香りの好みも人それぞれだし、だからラベンダーの香りが眠りにいいよっていっても、その匂いが嫌いな人だったらむしろ眠れなくなってしまう。

長谷川:僕とか寝る時に何か聞きながらじゃないと寝れないんです。多分おそらくそれは悪いと思うんですけど。

櫻井教授:それはそれで眠れるんなら良いんです。感情面に関しては何が悪いって決めつけるのも良くないし、何が良いって決めつけることもできないんですよ。だからやっぱり眠りに関する共通項でいうと光環境と室温になるんですよね、いままで個人差の話しをしてきましたが、体温に関しては個人差がとても少ない、みんな深部体温ってほぼ一緒なんです。

長谷川:エアコンも一晩中消しちゃいけないと聞きました。

櫻井教授:そうですそうです。一晩中エアコンをつけると体に悪いって思っている方いるんですけど、むしろ逆で、少なくとも夏はエアコンつけたまま寝た方がいいですね。文明が発達して睡眠って悪くなる一方なんですけど、唯一エアコンだけは睡眠に良い影響を与えてるんですよ。

長谷川:そうなんですね、そうしたらやっぱり光と室温に関する商品が作れたらまたぜひアドバイスを頂けたらと思います。今日はありがとうございました。

櫻井教授:こちらこそありがとうございました。

 

アデッソ代表取締役長谷川大悟 睡眠のプロ櫻井教授 副社長長谷川賢悟

左:アデッソ代表取締役長 谷川大悟 中央:櫻井教授 右:副社長 長谷川賢悟